事業場外みなし労働時間制

営業で昼間は外回りをしていますが、その後夕方には帰社して内勤をしなければならず、毎日夜遅くまで長時間労働しています。

 

しかし、会社はみなし労働時間制を採用しているからといって、残業代を一切支払ってくれません。このような場合でも残業代は発生しないのでしょうか。

 

 

 

内勤分の労働時間については、みなし労働時間に含まれません。事業場外労働についてのみなし労働時間と、内勤分の労働時間を加えた合計が、法定労働時間を超えている場合には、残業代が発生している可能性が高いでしょう。

 

なお、事業場外の労働についても、その実態によっては、みなし労働時間制が適用されないこともあります。

 

 

 

 

事業場外労働のみなし労働時間制とは

 

毎日外出して取引先を回り、ほとんど会社に帰ってこないで営業を行う従業員は、会社にいる上司からはどのような労働を行っているか分からず、実際の労働時間を厳密に把握することが困難なこともあります。営業に出ていた従業員が、外で休憩する時間を多めにとっていたかもしれません。

 

ですので、労働時間を算定し難い事業場外労働の場合には、当該業務の遂行に通常必要とされる時間分の労働をしたものとみなすことが許されています。

 

例えば仮に、従業員が実際には朝から10時間外回りの営業で働いて直帰した場合でも、労使協定によって「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」として「1日8時間労働したものとみなす」ことになっていれば、会社は8時間分の労働として把握すればよく、法定労働時間である8時間を超える2時間分について残業時間とカウントする必要はないことになります。

 

 

 

内勤分の労働時間はどうなるか

 

上記のように、みなし労働時間制が適用されるのは、事業場外で業務に従事し、かつ、使用者の具体的な指揮監督が及ばないため労働時間を算定することが困難な業務でした。

 

そうであれば、内勤業務については、使用者としても労働時間を算定することが容易ですから、みなし労働時間制は適用されません。

 

事業場外での業務の後に内勤業務に従事したなら、事業場外でのみなし労働時間に、内勤分の労働時間を加えた時間が、その日のトータルでの労働時間ということになります。

 

そのトータルでの労働時間が、法定労働時間(8時間)を超えているなら、その分、残業をされているということになりますから、割増賃金が支払われていないなら、未払い残業代が発生している可能性が高いでしょう。

 

もし、会社での労働時間の算定に疑問がある場合には、一度弁護士へ相談されてはいかがでしょうか。

 

 

事業場外労働のみなし労働時間制が適用されない場合

(昭和63年1月1日基発第1号参照)

 

ところで前述したように、事業場外労働に関するみなし労働時間制が適用されるのは、事業場外で業務に従事し、かつ、使用者の具体的な指揮監督が及ばないため労働時間を算定することが困難な場合でした。

 

そうであれば、事業場外で業務に従事する場合でも、使用者の具体的な指揮監督が及んでおり、労働時間の算定が可能な場合であれば、みなし労働時間制の適用はないと考えることができます。

 

したがって、事業場外の業務であっても、例えば次のような場合には、みなし労働時間制がそもそも適用されない可能性があります。

 

  •  事業場外で業務に従事するが、携帯電話や電子メールなどによって随時使用者の指示を受けながら労働している。
  •  毎日会社で、訪問先・帰社時刻等、当日の業務の具体的指示を受けたのち、指示どおりに外で業務に従事し、その後決められた予定どおりもどっている。

 

もし皆さんの中にも、上記のような例に当てはまるのであれば、みなし労働時間制が適用されず、本来は残業時間が相当発生している可能性もあります。

 

そのような方は、ぜひ一度、弁護士にご相談されるとよろしいでしょう。

 

 

最近でも、募集型の企画旅行(海外旅行)の添乗業務が「労働時間を算定し難いとき」には当たらないとして、労働者の残業代請求を認めた最高裁判決が出されています(最高裁平成26年1月24日第二小法廷判決)。

 

 

 
【過去の裁判例】

 

 多くの事例でみなし労働時間制が否定されています。


  • 展示販売業務において、業務に従事する場所及び時間が指定され、上司である支店長等も業務場所に赴いていた事例(東京地裁平成9年8月1日判決・労判722号62頁)
  • 配達業務に従事する従業員についてタイムカードによる労働時間管理が行われていた事例(大阪地裁平成11年5月31日判決・労判772号60頁)
  • 営業社員に朝礼へ出席のうえ予定表を提出させ、携帯電話を所持させていた事例(大阪地裁平成14年7月19日判決・労判833号22頁)
  • 携帯電話が貸与され、IDによる時間管理がなされていた事例(東京地裁平成17年9月30日判決・労経速1916号11頁)
  • 電子メール等で業務上の連絡をとり、始業時間や就業時間等についてタイムシートによる把握を行っていた事例(大阪地裁平成20年3月7日判決・労判971号72頁)など。

 


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